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呼びかけ人・賛同者の折々の発言を紹介しています

 

声明文の内容とは別に、個人で色々お考えのことがあると思いますし、事態も日々動いていきます。

そうした中で、ご自身のお考えを述べたいという方の発言の場を提供していきます。

発言・掲載を希望されるかたは、お問い合わせフォームより事務局へご連絡下さい。

こちらのページへの掲載は、実名を公表される方のみとさせて頂きますので、あらかじめご了承下さい。

投稿受付中

 

「学者の会抗議声明 100人記者会見」(9月20日)報告

芦川 晋(中京大学教員)

 

 9月20日の「学者の会抗議声明 100人記者会見」に本学有志代表として出席してきました。参議院での可決直後に会見を開くというのはとても大事なことだと考えますし、なるべくたくさんの大学から人が集まらなければと出向いたわけですが、行ってみれば参加者は171名と、8/26(水) 「100大学有志共同行動」の150名よりも多かったというのはとても頼もしいことだと感じました。

 最初に発起人である佐藤学先生が「抗議声明」を読み上げ、以後会の名称を「安保関連法に反対する学者の会」とすると宣言しましたhttp://anti-security-related-bill.jp/images/kougiseimei0920.pdf

 その後、「呼びかけ人」の方々から発言がありました。私のいちばん印象に残っているのは、最初に発言した早稲田大学の水島朝穂先生によるものです。これらの法律は違憲以外の何物でもない。安保関連法廃止法案を議員立法として提出し、可決された「安保関連法」の合法性を認めず、「違憲である」という声を上げ続けて行こう、と。実際、先例として「イラン特措法廃止法案」が提出されたことがあり、参議院では可決されているとのことでした。水島先生のご提案は具体的にはここで読めます(http://www.asaho.com/jpn/)。

 また、今回から呼びかけ人に加わった上智大学中野晃一先生は、野党を大きく変えたのは路上の力である。今日会見に取材に来ているのは政治部ではなく、社会部だろうけど、丸山眞男はかつて政治部は政界部だと述べたが、社会、政治の大きな変化が起きていることをきちんと伝えて欲しい。また、日本会議について伝えていないメディアがある、と指摘していました。

 その後、「賛同者」からの発言があり、いくつか紹介しますと、全日本おばちゃん党・大阪国際大学谷口真由美先生からは「最近、よくおばちゃんから、私、何をしたらいいでしょうと尋ねられるようになったと」(一同笑い)。学者は学者として発言していけばいいし、本来ならメディアもそうだが、それが市民にも伝わるような努力をしていきたいと。

 名古屋学院大学の飯島滋明先生からは、戦後ナチスに抵抗したレジスタンスを中心に結成した「国際民主法律家協会」が安保関連法案の衆議院通過にさいして懸念を示す声明を出し、アジアに緊張関係をもたらすものだ述べていることが紹介されました。なお、この件は調べてみたら『赤旗』で報道されていました(http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-08-21/2015082101_03_1.html)。

 その後、マスメディアからの質問を受け付けましたが、質問は朝日新聞の社会部(!)からのものだけでした。しかも、そのうちの一つは安倍首相の母校である成蹊大学の先生に向けた質問で、くだらないことを聞くものだと思いました。散会後もたまたま私の隣に座っていた方が成蹊大学の先生で発言もなさっていたのでそこにマスコミが集まってきていました(ため息)。

 最後に、廣渡清吾日本学術会議前会長からまとめとして、安倍氏はこれで大改革をやったつもりだろうが、誰も挫折感を抱いてはいない。今度はそれにに対抗する市民からの大改革を進め、安全保障法の無効化、廃止を実現しようというお話しがあり、「がんばるぞ」という声をあげて散会しました。とても、力強い会見でした。

 私見では、あとこの点を確認してもよかったように思います。高村副総裁は次の選挙で審判を受けると述べました。安倍首相は国民の理解が得られるよう努力をしていくと述べました。ということは、安保関連法についての議論は続き、安保関連法案可決の是非を問うことが事実上の選挙公約や争点になると認めているわけです。

 しかし、安倍政権ならびに与党は実際にこうした約束を守るとは思えません。そもそも集団的自衛権の行使容認を閣議決定しながら、次の参議院の選挙でこの点をまともに訴えることすらなかったのですから(実際、安倍氏はすでに9月25日の通常国会会期末の記者会見で反対派を批判しましたし、高村氏も「冷静になればわかってもらえる」と言い出しました)。では、メディアはこの点を争点化できるでしょうか?これもあてにならないと思います。だが、私たちが忘れることは決してありません。今後も安倍内閣が行ったあの不正義を心に刻みこみ、反対の声を高めていきましょう(反対運動はいまでも続いています)。

 (1)声明文はこちらで見ることができます。

   http://anti-security-related-bill.jp/images/kougiseimei0920.pdf

 (2)当日の会見の様子については各紙で報道されておりますし、会見の映像をこちらで見ることもできます。

   https://www.youtube.com/watch?v=eIkvpIc-e7U&feature=youtu.be

 

(2015年9月23日) 

 

 

 

9月18日国会前報告

芦川 晋(中京大学教員)

 この日、念願の(?)国会前に来ることができました。しかし、参議院特別委員会で可決された日に上京するとはなんとも皮肉であると同時に、ここは是非とも声をあげておかなければなりません。

 SEALDsが当初の6時半開始の予定を4時に繰り上げてしまったので、遅れていくことになったのですが、とにかくすごい人。主催者側は4万人以上、正確な数を把握できないと述べていましたが、実際、帰っていく人もいれば、入れ替わりにやってくる人もいて、延べ人数は当然かぞえられないと思います。年齢層も年配の方からお若い方まで、女性も男性もと多様な人が集まってきていました。なかにはスーツ姿の勤め帰りとおぼしき人もいました。

 とはいえ、警察がほぼ車道を封鎖してしまっているので、両脇の歩道に人ががあふれかえるような状態でした。機動隊の人数も多くどうしてここまでの警備が必要なのか自然と疑問が沸いています。そんな次第でどこがステージかも分からなかったのですが、私が着いたころは、時々、コールを交えながら、シールズや学者の会、公聴会で発言した方々、島田雅彦さん、参議院本会議開催間際になってからは国会議員のスピーチがありました。

 国会前にいくと実感できるのですが、この反対の声はほんとうに国会議事堂内部にも聞こえているのですね。国会議員の方もそう述べていましたが、これがほんとに反対する野党の背中を押す声になっているのですね。そして、安倍首相にも「安倍はやめろ」という声が聞こえているはずなのです。これだけ言われ続けて、これだけ無理なやり方を重ねてて本人はどういう気分でいるのでしょう?いずれにせよ、たとえ可決されても声を上げ続けることは大切だと改めて感じました。

 9時で音響設備の利用が禁止になってしまうので場所移動ということで、SEALDsと総掛かりが国会を前後から挟む形になりました。ただ、国会がいつまで続くがわからずおじさん的にはちょっとしんどいとそのあとしばらくして離脱してしまいました。起きたら可決というので離脱したのが悔やまれる朝でした。SEALDsと総掛かりは明け方まで国会前に居座っていたのですね。ほんとうにアタマが下がります。

 でも、みなさん言っていますが、私もこれで落胆するという気分にはなりません。ただ、ちょっと休めるかなとは思ってましたが、どうもそうはいかないみたいで、まだまだ反対の声を上げ続けていましょう。

(2015年9月22日) 

 

 

 

「憲法守って国が滅んだらどうするんだ」を法案賛成の理由にするとどうなるか

來田享子(中京大学教員)

 

(PanasonicCMの西島秀俊さん的に。)

 一緒に考えてみてほしい…。

 TVの街頭インタビューで「安全保障のことだから、解釈改憲も仕方ない」と答えた人に…。

 一緒に考えてみてほしい…。

 「憲法守って国が滅んだらどうするんだ」と法案に賛成する意見をネット上に書き込んでいる人に…。

 

 大げさだ、デマだと思うかもしれませんが、今回の安保法案について「いやまあ、安全保障のことやから仕方がないだろう」と、ちらっとでも思ったことがある人は、以下の「仮想政府の言い分」に反論をシミュレーションをしてみてください。4パターンあげてみます。

 

  • 日本の経済に脅威となる可能性のある国が防衛費を40倍にしたので、日本も防衛費を強化しないといけません。だから消費税を25%にします。アップさせた分はすべて安全保障のために使うので、収入に関係なく全国民に負担してもらいます。それでは生活できないという人もいるかもしれませんが、安全保障に関わることなので、あなたひとりが滅んだとしても、国が滅んでは大変なことになりますので、自力でなんとかしてください。

  • 安全保障環境が変化し、自衛隊隊員の数が不足気味になってきたので、日本の企業は常に社員の10%を自衛隊に入れてください。憲法は本人の職業選択の自由を保障していますが、今回は安全保障のことなので、仕方ありません。あなたの企業がいくら儲かっても、国が滅んだら意味ないでしょう?

  • 各大学は新卒予定の学生のうち、体力や精神力に優れた学生を自衛隊に推薦してください。安全保障上の重要な問題なので、これをやらない大学は大学であることを取り消します。また新卒学生は、合格と判断されたら、自衛隊に入隊してもらうことになります。え、内定決まってる?職業選択の自由がある?何を平和ボケしたこといってるんですか、憲法守って国滅んだらどうするんですか!

  • これまでコミケは入場料無料でしたが、今年からは安全保障にあてるために1人1回につき1000円を徴収して政府に納めるとともに、出品作品には必ず、自衛隊員を励ます表現を入れるようにしてください。それをやらないなら、コミケの開催は許可しません、会場も貸しません。え、高い?作風壊れる?BLには合わない?表現の自由?何を平和ボケしたこと言ってるんですか。あなたたちが漫画を書いたり読んだりできるのは、国が安全だからですよ。自衛隊の人たちはあなたたちを守れるようにがんばっているんだから、最前線にいかないあなたたちは、励ましの表現くらい嫌でもいれなさい。

 

 反論できますか?

 「安全保障のことだから解釈改憲しかたない」という思考で反論しようとすると、できなくなってしまいます。

このシミュレーションの結果、今回の法案可決とは、ここに4つの例を示したことができるようになってしまう、その前例を作るということではないかと思うわけです。ひとつでも前例を作ったら、基本的人権だろうが、職業選択の自由だろうが、財産権だろうが、憲法に保障されている、ありとあらゆる私たちの権利について、「安全保障のため」なら制限してもよいという既成事実を作ってしまうのではないか…。

 いやーそこまでは政府もやらんだろう、という人もいるでしょう。 そうかもしれない。

 今となっては、そうであってほしいとも願っています。

 けれども「いや、やらんだろう」ということには何の確実性も何の保障もありません。「やれない」ということとは絶対的に違うと思うのです。

 実は、これを政府にやらせないようにする、さらには、そもそもこんな前例を作らせないようにするのは私たち自身です。政府は私たちが投票した結果として与党になった議員で構成されているのですから。

 

最近では、いくつかの政党に所属する議員の中には、選挙前の約束を平気で破ったり、主張を真逆に変えたりする人がいます。 また、選挙のときには票集めのために、私たちに心地よさそうなことだけを言っておき、私たちが「それは困るよ」と思いそうなことについては自分がどう考えているかに触れないまま議員になって、「え、聞いてないよ〜」ということを勝手にやったりしますので要注意です。

(2015年9月18日)

 

 

 

9月3日の​参議院特別委員会審議とその後によせて

芦川 晋(中京大学教員) 

 

 さて、また共産党が提出した自衛隊の内部文書が問題になっています。「参議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会」で、9月3日、共産党仁比聡平氏から示された資料「統幕長訪米時における会談の結果概要について」によれば、防衛省の河野克俊統合幕僚長(武官)が参議院選挙直後の昨年12月に訪米した際、米軍幹部に「与党の勝利により来年夏までには(安保法制の整備が)終了するものと考えている」等保法案の成立時期や辺野古の基地移設問題について、見通しを語っていたことが記されていました。

 先回に寄せた一文でも述べましたように、安倍総理の訪米時に米国政府と約した新ガイドラインに基づき、それも間もない5月、統幕本部が安保法制の成立からその後の見通しまでを議論し、検討した文書が作成されていたことが明らかになりました。このとき、中谷防衛相は指示は出したが文書そのものの所在は知らなかったとのことです。この件の問題点はすでに指摘しました。

 今回、仁比議員により示された資料は先回の件と比べてもさらに大きな問題になります。まず、5月以前にこのようなやりとりが米軍幹部との間で行われ、かつそれが自衛隊内部で資料として作成されていたとすれば、そもそも中谷防衛相の先回の発言の信憑性すら疑わせるものです。というのも、中谷防衛相が指示していたという時期よりはるか以前に、自衛隊内部で安保法制の成立を見越して議論や検討がなされていた可能性があるからです。でなければ、河野統幕長は自衛隊幹部として米軍幹部にどうしてそのような見通しを語ることができたのでしょう?

 のみならず、このような内容を含んだ会談が行われたということ事態が、憲法にある文民統制という観点からしてきわめて大きな問題です。どうして、自衛官(武官)である河野幕僚長が安保関連法案や沖縄の基地問題について、米軍幹部に、議会審議はおろか、閣議決定に先行して見通しを述べることができるのでしょうか?

 その後、防衛省は「資料は省内にはなかった」と報告しました。とはいっても、ここで述べられているのは資料が防衛省にはないというだけのことです。資料にあるようなやりとりがなされたかどうかにどうかについては何も明らかになってはいません。いずれにせよこの時期に河野統幕長は渡米して米軍幹部と会談をしているのです。そこでは、いったい何が話し合われたのでしょう?当の河野統幕長は「自民党が安全保障法制の成立を公約に掲げ(訪米直前の衆院選を)圧勝したので、与党は次の通常国会で成立を目指すだろうという認識はあった」そうです(『産経新聞』9月3日)。また、とある政府関係者は「「共産党が示した資料には誤字が含まれる」と指摘。正式文書ではないものの、内容の記述には信ぴょう性があることを示唆し」ているとのことです(毎日新聞9月7日)。

 その後の9月8日、防衛省は参院安保法制特別委員会理事懇談会で「同名の文書は存在する」と発言内容を修正しました。しかし、同一ではないというわけです。となれば、この実在する文書と共産党が入手した文書の異同が問題になるのは当たり前ですが、「会談記録はある」と言いながらこの点については何もふれませんでした。9月11日の参議院特別委員会で、仁比議員は当然のことながらこの点について追及しましたが、政府はこれにたいしてまともに答えようとしなかったようです(報道が足りません)。これでは議会で河野統幕長の証人喚問が要求されるのは当然のことだと考えます。

 繰り返しになりますが、この件はこの国で文民統制がまともに働いているかどうかという重要な問題にかかわります。これは安保関連法案に賛成/反対以前の問題です(私としては賛成の人ほど真面目に法案を吟味して欲しいと申し上げたい)。政府が、本当に集団的自衛権の行使を容認したいのであれば、この点について火消しに走るよりも、実際に何があったかを明白にする方が、国民の理解を得るためには得策なはずです。安保関連法案の可決を前に現行政府が自衛隊内部でなにが進行しているのかを十分に把握できているかどうか疑念が生じてきているのです。これをきちんと明らかにするのは政府の責任だと思います。

 しかし、安倍政権にはこのことは「どうでもいい」ようです。これがますます国民の不信感を増幅させては反対の声が広がる、これまでの一連の閣僚の答弁と連続するものであるということがどうしてわからないのでしょうか?おそらく、この問いは間違っていますね。そもそも政府与党に国民の理解をえる気なんかないのです。つい最近、高村副総裁は「国民のために必要だ。十分に理解が得られていなくても決めないといけない」と言ったばかりです。安倍首相も「集団的自衛権は違憲」と発言した山口繁元最高裁長官を「今や一私人だ」といい放ち、その専門家としての知識を黙殺しました(これが、ご本人をどれだけ侮辱するものかお分かりになるでしょうか?)。

 また、自衛隊に関連する問題はこれだけではありません。イラク派遣時の陸自文書の黒塗りになっていた内容部分が明らかになりました。それによれば、当時から海外メディアで指摘されてはいたことですが、サマワ宿営地への迫撃砲弾やロケット砲弾による攻撃が10回以上に及んでいたとのことです。また、最終的には「危ないと思ったら撃て」と指導していた指揮官が多かったことも記されています(『朝日新聞』8月27日)。この件は、8月26日の国会でもとりあげられています

 イラク特措法は、武力行使との一体化を避けるという現行憲法の方針に沿って、戦闘地域と非戦闘地域を区別し、非戦闘地域のみへの自衛隊派遣を認めたものであり、現行の憲法で解釈可能なぎりぎりの範囲で自衛隊の海外派兵を認めたものだといえます。なぜ、武力行使との一体化を避けなればならないのでしょうか?武力行使と一体化してしまえば自衛隊も交戦状態に組み込まれてしまうからです。そして、日本国憲法は交戦権を認めていません。

 いくら非戦闘地域だといっても、国連決議すら経ない連合国の一員として派兵されている以上、国際法上は敵対勢力からは交戦国とみなされても仕方がありません。そして、実際に攻撃を受けていたわけです。なお、「イラク特措法」での武器使用基準は、正当防衛の延長上にあるもので、「生命または身体を防衛するためやむを得ないと認める相当の理由がある場合」(十七条一項)にかぎられます(イラク特措法の成立にかかわった内閣法制局長官は秋山收氏であり、今回の安保法制に関してホルムズ海峡を例に挙げ「歯止め」が不十分で「運用違憲となる恐れがある」と述べています)。

 しかし攻撃を受けて自己防衛のために応戦すれば、それはもはや武力行使、つまりは交戦状態と区別がつかなくなってしまうのではないでしょうか?だからこそ、そのような自体を避けるために戦闘地域と非戦闘地域という区別が設けられていたのだと思います。ところが、内戦状態では戦闘地域と非戦闘地域という区別自体が難しくなってしまいかねなかったわけです。サマワで起きていた事態とはそのようなものだったのだと思われます。しかし、この件は、その後、国会でもメディアでも問題にされていません。本来なら、イラクからの自衛隊帰還直後に検討されてよかった課題のはずですし、今回の法整備にも影響を与えてよいはずです。

 にもかかわらず、今回の安保関連法案では、特措法の戦闘地域と非戦闘地域という区別を廃止し、戦場での後方支援(兵站)を可能としています。そればかりか、政府は、搬送する弾薬やミサイル等を武器にはあたらないと説明しています。ちなみに、これらは、先回も確認しておきましたように、自衛隊では武器として扱われているものです。

 しかも、敵対勢力にしてみればこの「武器ならざる武器」が自軍への攻撃に利用されることは明らかであり、兵站を断つことは軍事戦略上おかしなことでもありません。つまり、これでは武力との一体化を避けることが実質的に不可能なのです。これはイラクの「非戦闘地域」ですら交戦状態を避けるのが難しかったことを鑑みればいうまでもないことでしょう。後方支援では交戦状態に巻き込まれてしまう可能性はきわめて高いのです。

 だからこそ、歴代の内閣法制局長官すら今回の安保関連法案に反対しているのではないでしょうか。たとえその解釈に異論があったにしても、内閣法制局は、これまでなんとか憲法9条の範囲内におさまるように、自衛隊の海外派遣をやりくりしてきたわけです。ところが、今回の安保関連法案ではそうした原則すら崩れてしまいかねません。歴代の内閣法制局長官が反対するのはやはり憲法9条を守ってきたという自負があるからではないでしょうか?ということは、これでほんとうに憲法9条は骨抜きになってしまうのです。

 しかも、集団的自衛権の行使の容認にあたった新三要件は、同じく自衛権の行使であるにもかかわらず個別的自衛権の行使の三要件よりもゆるいとの指摘があります(「武力危機事態」から「存立危機事態」へ)。これは9月8日に参議院で参考人招致を受け「違憲だ」と証言した大森政輔氏によるものです。なお、大森氏は周辺事態法の制定に関わっています。なぜ、集団的自衛権の行使の方が要件がゆるいのでしょう?本来なら、個別的自衛権の行使よりも集団的自衛権の行使の要件の方が厳しくておかしくないのではないでしょうか?

 のみならず、安倍総理をはじめ、岸田外相や中谷防衛相らは、この新三要件の文言から離れた答弁を繰り返しているのみならず、それぞれの発言がしばしば食い違い、一連の答弁が整合性のあるものになっていません。これだけで安保関連法案がまともに審議するような代物になっていないということを示しているのではないでしょうか?

 繰り返しますが、どうしても集団的自衛権の行使を容認したいというのであれば、政府は憲法改正手続きを踏み、国民の承認を得たうえで、筋道だった説明ができるよう法案の整備をすすめるべきです。このまま法案を可決してしまえば、国家を制約する規範としての憲法は壊れてしまいます。そして、海外に派遣された自衛隊員はどんな境遇におかれることになるのかもわからないのです。これはあまりに無責任であり、罪深いと言わざるをえません。

(2015年9月12日)

 

(1)当の資料はここで読めます。https://antianpo.files.wordpress.com/2015/09/20150902-e998b2e8a19be79c81e7b5b1e5b995e995b7e8a8aae7b1b3e69982e381abe3818ae38191e3828be7b1b3e8bb8de5b9b9e983a8e381a8e381aee4bc9ae8ab87.pdf

 国会でのやりとりはこちらを参照。http://iwj.co.jp/wj/open/archives/261340

(2)9月3日の会見についてはこちら。http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150903-00000593-san-pol

http://blogos.com/article/132672/

(3)9月7日の報告はこちら。http://news.yahoo.co.jp/pickup/6173557http://digital.asahi.com/articles/DA3S11955184.html

(4)9月10日の同名の文書は存在するという河野統幕長の発言はこちら。http://jp.reuters.com/article/2015/09/10/self-defense-idJPKCN0RA0ZD20150910

(5)9月11日の国会審議についてはこちら。内容の異同について説明はなされていないようです。
http://www.asahi.com/articles/ASH9C5WVFH9CUTFK01J.html

(6)高村副総裁の発言はこちらで。http://mainichi.jp/select/news/20150907k0000m010058000c.html

(7)山口元最高裁長官の発言とそれに対する安倍首相の発言はこちらで。http://www.asahi.com/articles/ASH9255ZGH92UTIL02Q.htmlhttp://sp.mainichi.jp/select/news/20150912k0000m010071000c.html?inb=tw

(6)開示されてイラク派兵時の内部文書についてはこちら。http://www.asahi.com/articles/ASH8V5HW5H8VUTFK00L.html。全文はここで読めます。http://www.kiyomi.gr.jp/blog/5969/

(7)元法制局長官大森正輔氏の参議院での意見陳述はこちら。http://bunbuntokuhoh.hateblo.jp/entry/2015/09/09/074700、また、長谷部恭男氏との対談も参照のこと。『安保法制ーどこが違憲か』(有斐閣)

 

 

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