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「安全保障関連法案に反対する学生と学者による街宣行動」(9/6)報告

芦川 晋(中京大学教員) 

 

 本日新宿伊勢丹前の街宣に行って参りました。まず、何よりも楽しかったと申し上げておきましょう。とくに、コール、みんなで反対を叫ぶことが。そして、自分がこの数のなかの一人であるということが。15時前にはそれほどの数ではありませんでしたし、ヘリが飛んでいたのも始まって間もなくでしたけれど(ですから、航空写真はその頃のものでしょう)、その後もどんどん人が増えていったようで、それは私も肌で感じましたが、主催者側の発表では最終的には参加者はおよそ1万2千人とのことでした。実際、新宿駅方面を向いてもどこまで人並みが続いているのかわかりませんでした。
 結構、他大ののぼりが立っていました。名古屋地区の団体であろうと思われるフライヤーも見かけました。私も大岡先生からノボリを拝借しておけばよかったと思いました。あいにくの雨でしたが、代わりに雨傘がずらっとならぶことになりました。この光景は後から写真で見てみると壮観ですね。最後に、佐藤学先生が「新宿ハイジャック」と言っていましたが、これならハイジャックに成功したのではないでしょうか。
 雨の中での街宣でしたので、どなたが何を話したのかというのがもううまく対応づけられません。詳細はおいおいネットにあがってくると思います。流れとしては学生と教員が交互にスピーチをして、そのあと各党の代表が話をして、最後に佐藤学さんがスピーチをしてしめるという構成で、途中、奥田さん他(含む高校生)のリードで何回かコールが入りました。
 政治家のスピーチのなかで印象的だったのは、公明党から二見氏(元党副委員長)が、公明党あるいは創価学会を代表しているのかどうかはよく分かりませんが、戦争法案に公明党が賛成することをあからさまに批判していたことでした。創価学会の旗もふられていました。
 さすが政治家、スピーチがうまいと思ったのは、最初にしゃべった蓮舫民主党代表代行と最後にしゃべった志位共産党委員長でしたが、この二人のスピーチの方向性は正反対だったと思います。蓮舫氏はもっとみなさまの力を私たちにと、志位さんは皆さんの力を受けてわれわれはーーーという形で呼びかけていました。
 わたしは思います。これまで国民ないし市民は自らの意志は力強く表明してきました。それについて行けず、中途半端な態度をとり続けていたのは民主党ではなかったかと。だったら、この言い草はないと思います。しかし、蓮舫氏も安保関連法案を廃案にしたいとはっきり言いましたから、われわれが民主党議員の言動に注視し、より明確にわれわれの要求を民主党につきつけていくことが、蓮舫氏の要望に応えることになると考えます(同様の姿勢は、自民党や公明党の内部に向けても必要ですが)。
 また、奥田君をはじめ何人かの方が言っていましたが、たとえ、参議院で無理矢理可決しても、あるいは衆議院で再可決されても、それでこの反対の声はしずまるわけではありません。とりあえずの目標は今国会で安保関連法案を廃案に追こむことですが、それがかなわなければ、来年の参議院選挙、さらには次の衆議院選挙に向けた視点も必要です。安保関連法案が可決されようとされまいと、こんな「無法な」ふるまいをする内閣を放置することはできません。どのような形になるかはともかくとしても、われわれの課題は秋以降も継続するのです。
 それから、一部で、SEALDsの「国民なめるな」というものいいなどについて批判する声があるというのをずっと聞かされてきました。たしかに、程度の差こそあれ影響を被るのはこの国の棲むすべての人々であり、それは「国民」とはかぎりません。けれど、奥田さんの発言を見るかぎり、彼はこの点に十分自覚的であるように見えました。「国民」という言葉とあわせて「市民」等の言葉も使いましたし、「日本」と「沖縄」のことにも言及していました。沖縄からも参加者がいたようです。また、日本国憲法上の「国民」とは英文では「people」になるということにも触れていました。「国民」の件に過剰に目くじらをたてることはどうなのかと感じずにはいられませんでした。
 最後に、デモが終わった帰り際に、トルコ系クルド人の人たちが反戦スピーチをしていました。トルコはイスラム国を攻撃しながら、クルド人支配地域への影響力拡大を狙って軍事力を展開しています。米国もこれを容認しています(1)。イスラエルはまた壁を作り始めました(2)。安保関連法案がとおれば、中東情勢と日本の関係はどうなるか分かったものではありません。国際情勢を考えると、われわれが何に荷担されることになるかは実はよくわかっていないのですね。
 とっても楽しい街宣でしたが、これから考えるべき課題をいろいろ与えられた街宣であったとも思います。これをいっときの充足感で流してしまわないようにしたいと思った今日でした。そして、これからも集会、デモ、街宣は続きます。仕事人ですんで、いつもというわけには参りませんが、これからも可能なかぎり現場に足を運びたいと思います。                       

 

 (1)http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2015/07/is-6_1.php

 (2) http://www.itele.fr/monde/video/crise-des-refugies-israel-construit-une-cloture-face-a-la-jordanie-pour-controler-ses-frontieres-136243

 

 (2015年9月7日) 

 

 

「経済的徴兵制」を懸念する 

牧野 恵之(近隣住民)  

 平川先生ありがとうございました。書を持って街にでようという思想には共鳴します。 さて、いよいよ大詰めに来ていますが、私も声をあげましたので紹介してください。 私は児童相談所で勤務していますが、今回の法案審議を通じ日常的に目の前で接する子どもたちが戦地にいってしまう不安を感じました。 社会的養護という形で育つ子どもが社会的弱者として社会生活を送りやすくなる現実を前にして、経済的徴兵制は露骨に一つの選択肢として彼らの前にやってくるのではないかという不安。そして、家族から離れて暮らすなかですですでに負っていることの多いトラウマ体験を、更に戦地で悪化させるのではないかという不安。この2点の不安はどうしても消えることがなく、仲間と一緒に声をあげることにしました。 社会的養護有志の会としてアピール文をだしています。

http://ameblo.jp/shakaitekiyougo/entry-12069112139.html 

賛同していただける方がいればご連絡ください。

(2015年9月6日) 

 

 

 社会的養護に関わる有志によるアピール

 目の前のこどもたちを戦争に行かせてはいけない! 目の前のこどもたちに戦争をみせてはいけない! 目の前の子どもたちを前にして、社会的養護に関わる者として強く安保関連法案に反対します。 私たちは、社会的養護に関わる者として児童を守る立場から、今国会で審議されている安保関連法案に反対します。

 戦争には必ず戦地に赴く戦闘員が必要です。今回の法改正においては、自衛隊の任務から直接侵略及び間接侵略の削除、自衛隊員に対しての国外における服務規程を定めた国外犯処罰規定の新設など集団的自衛権の行使を前提にして従来とは異なる大幅な活動地域の拡大が目されるところであり、当然の理として戦地に赴く自衛隊員の増加が見込まれています。日本と同じ志願兵制の米国においては経済的徴兵制がとられ社会的弱者を兵士として供給するシステムがとられています。近い将来日本においても経済的徴兵制が導入される可能性が危惧されます。

 近年においては所得の格差などによる貧困の連鎖といった社会状況の影響のもと、不適切な養育や虐待などにより心に傷を抱える子どもや障害を抱えた子どもが、児童相談所に 保護をされ、子どもの希望も聞かれることなく社会的養護施設に入所して暮らしている 子どもたちの多くは安らぎ、思いやり、愛情、食事、お金など本来ならば家族から受け取 る何らかの質的、量的な不足を抱えていることが多い。社会的養護の下で様々な関わりを 通じて親代わりとなるかわからないが、心の傷を癒すことや、安心した生活環境の確保、 自立支援を行っているが、支援の不足により、子どもたちを社会的弱者として社会に送り 出し、生きづらさを抱えて生活を送っている。中には不眠やフラッシュバック、行動障害 などの精神症状を呈していることも少なくない。

 私たちはそんな子どもたちが戦地へ行ってしまうことを憂う。 そこに自らの意思を尊重されず諦め、我慢するしかなかった子どもたちの姿を重ねるからである。 私たちはそんな子ども達が実際に戦地をみてしまうことを恐れる。 そこに不安や恐怖でいっぱいだった子どもたち自身の姿を重ねるからである。 だから私たちは、子どもたちに戦争のない生活だけは保障したい。 それゆえ安保関連法案への反対を強く主張します。

 

                    社会的養護に関わる有志の会                       

 社会的養護に関わる有志の会においては、戦争関連法案に反対するアピールの意思表明を実施する予定でいます。それにつきましては、ご一緒に意思表明をしていただける方にこの活動にへ協力いただきたいと思います。

 ご協力いただける方は、下記の項目をお知らせいただき、こちらのアドレスまでご連絡ください。

 (名古屋市中央児童相談所 牧野 maki2ho2haru@gmail.com

  氏名(かな) ご所属・お立場 *あてはまるところに○を付けてください

  社会的養護関係者 児童相談所関係者  医療関係者 当事者 その他(         )

 意思表明の方法 *あてはまるところに ○を付けてください

  呼びかけ人として協力します 氏名の公表(可・不可) ご所属・お立場の公表(可・不可)

  賛同者として応援します 氏名の公表(可・不可)   ご所属・お立場の公表(可・不可)

  メーリングリストへの参加 *できるだけ参加を推奨します 参加します 参加しません

 社会的養護関係者 神戸水脈子 喜多伸晴 清水真一 児童相談所関係者 大谷基恵 大野由香里 熊崎昌二 酒井保治 西村洋子 橋本佳子 前田久美子 牧野恵之 医療関係者 東美代子 石井 要 白尾友志 堀江重信 牧 真吉  障害・療育関係者 荒武ひろみ 山口徳郎 (現在の賛同者) 児童相談所関係者 吉田恵子 (平成27年9月4日現在)

 

http://ameblo.jp/shakaitekiyougo/entry-12069112139.html

 

 

 

「100大学有志共同行動」8/26(水) )報告 

大岡 頼光(中京大学現代社会学部准教授)

 

①100大学有志の合同記者会見
②国会議員要請(@参議院議員会館)
 この後、日弁連の「安全法案廃案へ!日本の立憲主義を守り抜く大集会&パ
レード~法曹・学者・学生・市民・総結集」に参加。
③日弁連と学者の会との合同記者会見(@弁護士会館)
④日比谷野音大集会&パレード(日弁連主催)

①100大学有志の合同記者会見では、全国87大学253人の大学教員が集まり、永
田町で記者会見を行いました。
 「学者の会」事務局代表の佐藤学・学習院大学教授は、各大学有志の声明は7
月20日に18大学程度だったのが、現在同108大学に広がっていると報告。
 上野千鶴子・東京大学名誉教授は、「大学人はふだんこのような会見場所に来
る人種ではない。それが全国からこれだけ集まっている。今回の危機がいかに
深いかがわかる」と発言。
また、10大学からの報告では、安保法案反対声明への賛同が急速に広がっている
ことが分かりました。それにも今回の危機の深さを大岡は感じました。
 特に、与党公明党と関係の深い創価大学で危機感は強いようです。佐野潤一
郎・非常勤講師は、大学教員や学生、OBらによる署名サイト「安全保障関連
法案に反対する創価大学・創価女子短期大学関係者 有志の会」を8月11日に開
設しました。その署名数は記者会見当日配付資料(8月26日)で1,430名。8月26
日0時更新の同サイトの署名数は1,620名。一日平均約100名の署名です。佐野先
生は、「牧口常三郎・創価学会初代会長は軍部権力と対峙して獄中で死亡し
た。なぜ平和を掲げてきた公明党の議員が、安保法案に賛成できるのか」と批判
し、会場では長い大きな拍手がありました。
 中京大学でも、今回の危機の深さが多くの人に分かるような集会や研究会等を
開き、署名が広がるよう努力する必要があると感じました。

参考:
毎日新聞 安保法案:廃案求め100大学連帯「政権にくさびを」
http://mainichi.jp/select/news/20150827k0000m040078000c.html
赤旗 戦争法案廃案へ 学者の会「100大学有志の共同行動」 有志253人が
記者会見
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-08-27/2015082703_01_1.html

②国会議員要請(@参議院議員会館)
 各大学有志の声明、賛同人署名を持ちより、参加者全員ですべての参院議員を
訪問し廃案を要請しました。中京大学・大岡、猿田正機先生、赤坂暢穂先生、
京都大学・藤原辰史准教授(京大有志の会の声明書を書いた方)が一班となり、
4名(公明3、共産1。全員、京大卒)の参議院議員への要請に向かいました。し
かし、共産党・井上哲士議員に秘書対応していただいただけでした。公明党・谷
合正明議員には面会を断られ、浜田昌良議員は資料ポスト投函のみ、山本香苗
議員は留守でした。

③日弁連と学者の会との合同記者会見(@弁護士会館)
 全体の状況については、下記のHPをご覧ください。そこにないことを主に書き
ます。
 記者会見の最後に、産経新聞の記者が「強制加入団体である日弁連が政治問題
に発言してよいのか?」と質問しました。日弁連の方は、「これは政治問題で
はない」と答えました。「日弁連が寄って立つのは、法律であり、憲法である。
国民の人権を擁護するために国家権力を縛るのが憲法である。憲法のルールを
国家権力が無視しようとすることに、日弁連が反対するのは当然である。よっ
て、これは政治問題ではない」というお話でした。
 中野晃一・上智大学教授は、「日弁連会長、元最高裁判事、元法制局長官、憲
法学者が並んだ。日本の法の支配、人権擁護、学問が危機にあるということ
だ。報道の自由も危機にある。報道のみなさんも取材する側にいるだけではおか
しい。われわれと一緒に座って報道の自由の危機を訴えるべきだ」と呼びかけ
ました。
 また、「法の番人」ともよばれる内閣法制局長官経験者が2人も、今回の安保
法案は違憲だと明快に言い切ったことも印象的でした。

日弁連の立場が分かるのは、
弁護士ドットコムニュース 「憲法の危機だけでなく、知性の危機」安保法案反
対の学者・弁護士300人が会見
http://www.bengo4.com/other/1146/1287/n_3600/
マスコミも、学者・法曹と一緒に発言せよと言ったのは、
中野晃一・上智大教授「日弁連会長、元最高裁判事、元法制局長官、憲法学者が
並んだ。
https://twitter.com/knakano1970?lang=ja
元内閣法制局長官2人の発言は、
朝日新聞 元最高裁判事・法律家…300人集い、安保法案「違憲」
http://www.asahi.com/articles/ASH8V4R9FH8VUTIL01D.html
最も詳しく報じたのは、
日刊ゲンダイ 学者・法曹300人決起 安倍政権はすべての知性を敵に回した
http://nikkan-gendai.com/articles/view/news/163155
東京新聞 元最高裁判事ら安保法案批判 日比谷で日弁連が集会・デモ
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015082702000117.html


④日比谷野音大集会&パレード(日弁連主催)
 日比谷公園野外音楽堂での大集会で特に印象に残ったのは、「正直疲れた。早
く元の生活に戻りたい。しかし、今の状況では声をあげずにはいられない」と
いう趣旨のことをおっしゃっていた佐野潤一郎・創価大学教員、町田ひろみ・安
保関連法案に反対するママの会、奥田愛基・SEALDsの3名でした。特にSEALDs
の奥田さんの「正直怖いと思うときもある。でも俺たちの民主主義だ。黙っちゃ
いられない。みんなの社会なんだ。若者だけじゃない。みなさん声を上げてく
ださい!」という訴えかけには、身の引き締まる思いがしました。
 石川健治・東大教授(憲法学)の「日本国憲法の体制の連続性、法的連続性が
断たれるという今の事態は、クーデターだ」という発言も、非常に重要なもの
だと考えます。
 集会後は、大岡がパレードに参加しました。日比谷野音を出発し、国会議事堂
前を通り、永田町まで歩き、解散しました。国会議事堂前を歩く際には、「お
互いがんばろう!」と野党議員や職員とのエール交換をしました。

朝日新聞 元最高裁判事・法律家…300人集い、安保法案「違憲」
http://www.asahi.com/articles/ASH8V4R9FH8VUTIL01D.html

新聞テレビ等のHPは「学者の会」(https://twitter.com/anpogakusya?lang=ja

にも、多くのっています。ご参考にしてください。

以上で報告を終わります。

(2015年8月28日)

 

 

 

 

「政府には事に真摯に向き合うこと、国民に誠実に対応することを望む」

岡本 祥浩(中京大学総合政策学部教授)

 

 反安保法制案反対の動きが日に日に高まっています。大変心強いことです。国会答弁を見るにつけ、政府与党の不誠実な態度が目に余ります。これでは「民主主義を潰そう」としているとしか思えません。自分で発言したことを何の釈明や説明もなく覆す。野次を飛ばす。質問に真摯に答えようとしない。目に余る所業です。
 政府が安保法制案提案の最大の理由に「国際環境の変化」があります。国際環境が変化したから憲法の解釈が必要で集団的自衛権が必要だと言います。その国際環境の変化を何時まで経っても説明しません。この間の報道からそれを推察すると次のようなことのように思えます。日本の自衛隊が高度な武器を装備し、紛争周辺地に姿をあらわし始めたのがここ数年です。紛争周辺で活動している他の人々から見れば、自衛隊がとても「良いもの」を持っているように見えます。「ぜひ、その武器を貸してほしい。使わせてほしい」と思うのはごくごく当たり前です。そうした反響を政府は海外からの要請があると考えているのではないでしょうか。武器製造にかかわる企業は活動領域が広がりますから、大喜びです。国の内外から日本政府に圧力が高まるのは当たり前です。「武器輸出三原則」を変更してしまえば、その圧力はますます高まります。武器を装備して紛争地周辺に来てほしいと思うでしょう。「高度な装備を売ってほしい」、「使ってほしい」、と思うのは当たり前です。
 日本国憲法はそうした状況を造らないように、憲法9条を定めたのではないでしょうか。憲法を定めた真意を踏みにじり、自ら世界中に武器をばらまき、軍拡競争の雰囲気を創りながら「国際環境の変化」という言葉で蓋をして「安保法制」を進めることは許せません。
 政府には事に真摯に向き合うこと、国民に誠実に対応することを望みます。日本政府の所業は「憲法の真意を悪魔に売り渡した」としか映りません。

(2015年8月27日)

 

 

 

 

「8月11日参議院平和安保特別委員会審議によせて」  

芦川 晋(中京大学教員) 

 

 昨日8月11日、参議院平和安保特別委員会で、共産党の小池晃議員が行った質問は重要な意義を持つものだと思うので、この件について記すことにします。というのも、私はテレビを見ないものでこの件が昨夜どのように報道されたのか分かりませんが、今日の新聞を見るかぎり話は原発の再稼働に集中して(これはこれで重要な問題ですが)、件の質問についてさしてまともに報じられた形跡がないからです。

 われわれは中京大学有志として声明を出しましたが、この声明は、私見では、二つの大きな骨子からなっています。一つは、安保関連法案が憲法違反だというものです。たとえば、後方支援を行うことは国際法に照らせば軍事活動の一貫であり、敵対勢力から交戦国とみなされても仕方がありません。また、従来の憲法解釈では禁じられてきた集団的自衛権の行使を容認した閣議決定から安保関連法案の衆議院での強行採決まで、これらすべては公務員の憲法遵守義務に反しやはり憲法違反にあたるということです。個別にも憲法に照らし合わせるといろいろ問題のある発言がありました。それに改憲の是非を判断する国民(投票)の権利もないがしろにされています。

 ところで、昨日の小池議員の質問で明らかになったのは、この二つとは違う次元の問題です。小池氏は質問のなかで統合幕僚監部(武官)の内部資料を示しました(「『日米防衛協力のための指針』および平和安全法制関連法案について」)。4月27日に日米両政府は日米防衛協力のための指針(新ガイドライン)の改定に合意しましたが(ちなみに、これは国会で審議されていません)、この文書のなかには、現在審議中の平和安全法制関連法案の成立を前提としてはじめて可能になる事柄がすでにガイドラインに含まれている旨の記載がありました。そして、それを統合幕僚監部が検討していたわけです。しかも、作成されたのは安倍総理がガイドラインの改定を約束して間もない5月末であり、法案成立後のスケジュールまで書かれています。

 小池氏の発言。

「この説明文書の中にこうあります。「ガイドラインの記載内容については、既存の現行法制で実施可能なものと、平和安全法制関連法案の成立を待つ必要があるものがあり、ガイドラインの中ではこれらが区別されることなく記載されている」。ーーー。法案が成立しなければ実施できない内容を、国会で議論もしないうちに日米合意し発表したことになる。

ーーー。大臣ね、統合幕僚監部がすでに、新ガイドライン・法案を受けた今後の方向性の検討に入っていることをご存知でしたか」。

 中谷防衛大臣は最初は「承知していない」と言いながら、最終的にこの文書の存在を認めました。そして「国会での審議中に法案の内容を先取りすることは控えなければならない」と言いつつも、この質問にうまく答えることができないまま、審議は中断となりました。

 これのどこが問題なのでしょう?まず、安倍総理が国会の同意を得る前に独断で米国と約束した新ガイドラインに基づき、法案が国会で可決されるはるか以前に、自衛隊内部で吟味のうえかなり具体性のある文書を作成していたということです。しかも、もし防衛大臣が知らなかったとしたら、自衛官(武官)たちで勝手に議論を進めていた疑いは濃厚です。しかし、自衛隊を統制するのは文民でなければなかったはずです。もし防衛大臣が承知していたとしたら、国会ならびに国民に重大な案件を隠していたことになります。いずれにせよ、本来なら内閣の存立にかかわる大問題になっても不思議はないと思います(追記:その後の報道によれば、中谷大臣は指示は出したが、内容は承知していなかったそうです。でしたら、両者にまたがる大問題ではないでしょうか?)。また、これが特定秘密に相当するとすればどういうことになっていたのでしょう?

 それから、この文書には南スーダンのPKOの話がでてきます。再度、小池議員の発言。「南スーダンPKOを年明けから今度の法制に基づく運用するって書いてある。こんな検討をしているということが許されるんですか」。

 国会ではもっぱらホルムズ海峡封鎖時の掃海艇の派遣ということが語られてきました。しかし、これについては当初から現実性がないという指摘があっただけではなく、欧米とイランの和解が進みまったくありえない話になってきました。これにあわせてか安倍首相は参議院では南シナ海での後方支援を口にするようになりました。もっとも、こちらも現実性については疑問が出されています。しかし、南スーダンのPKOで「駆け付け警護」という話は聞いたことがありません(付記:7月29日『毎日新聞』で取り上げられていました)。なお、南スーダンは内戦状態で外務省は渡航延期・退避勧告をだしています。

 実は、最初の二つは「第三次アーミテージ=ナイ報告書」と呼ばれる米国の対日方針の基とになっていると言われる「日米同盟報告書」にでてくるものです。最近は、法案の出所はもとをたどればここではないかという指摘も出てくるようになりました。たとえば、安保法制の新3要件に対応する文言を見つけることもできます。アーミテージ氏自身も関連発言をしています。ちなみに報告書にはこうあります。

「同盟防衛協力の潜在力が増加した2つの追加地域は、ペルシャ湾での掃海作業と南シナ海の共同監視である。ペルシャ湾は極めて重要なグローバル貿易とエネルギー輸送の中核である。ホルムズ海峡を閉鎖するというイランの言葉巧みな意思表示に対して、日本はこの国際的に違法な動きに対抗する為に単独で掃海艇をこの地域に派遣すべきである。南シナ海における平和と安定は、特に日本にとって大変重要な、もう一つの極めて重要な同盟利害である。重要なエネルギー資源を含む、日本へ供給される88%のものが南シナ海を経て輸送されるのであるから、安定と航行の自由を確保する為に米国と協力して監視を増強することは日本が関心を示すところである」。

 しかし、小池氏が示した内部文書に出てくる南スーダンの件を鑑みると、もはや「第三次アーミテージ=​ナイ報告書」のレベルではすまない軍事支援が具体的に考えられていると言わざるをえません。すでに述べたように後方支援をすれば交戦国扱いされます。安倍首相は自分の言う「後方支援」とは国際法の概念とは違うものだと認めましたがそれでは何を意味するのかわかりません。たしかに、武器は輸送しないそうです。もっとも、後方支援で輸送可能になるのは中谷大臣によれば「武器ではない」弾薬からミサイル、さらに文面上は核兵器まで含まれます(このことを岸田外相は知らなかったそうです)。

 ちなみに、その自衛隊は武器を次のように説明しています(HPから)。

1)武器輸出三原則における「武器」とは、「軍隊が使用するものであって、直接戦闘の用に供されるもの」をいい、具体的には、輸出貿易管理令別表第一の第197の項から第205の項までに掲げるもののうちこの定義に相当するものが「武器」である。

*なお、(2)1)の「第197の項から第205の項」は、「第1項」に変わっている。

2)自衛隊法上の「武器」については、「火器、火薬類、刀剣類その他直接人を殺傷し、又は、武力闘争の手段として物を破壊することを目的とする機械、器具、装置等」であると解している。なお、本来的に、火器等を搭載し、そのもの自体が直接人の殺傷又は武力闘争の手段として物の破壊を目的として行動する護衛艦、戦闘機、戦車のようなものは、右の「武器」に当たると考える。

 どうみても、こちらの説明の方がまともです。私の常識は「弾薬が武器ではない」という説明が理解不能だと告げています。そもそも敵対勢力がこんな「武器」の定義を受け入れてくれるでしょうか。こんな愚かしい国会審議はないと思います。そして、この人たちが真面目に答弁してるのか疑念をぬぐい去ることができません。戦闘に巻き込まれる可能性があるかぎり、自衛隊員から死者がでるおそれは常につきまといます。同じく平和条項がありながらを「外国出動」認めたドイツでは65人の犠牲者がでているとのことです。

 こうみてくると、「武器」云々以前に、法治国家・立憲政治のもとでは常識として理解できないことが起きているように思えます。そもそも、この法案は肝心なところにはまったく触れていないのではないでしょうか?なによりも、戦場で人が死ぬかもしれないということがまともに考慮されていない。ですが、国民を守るのが国家の役割のはずです。それが等閑にされている。最後にもう一つ付け加えておきましょう。日本国内ではほとんど報道されていないようですが、米国では安保関連法案の成立を見込んで来年度予算が組まれています。4万人の兵士が削減され、10年間で約1兆ドルの歳出を削減するそうです。一体なにがおこっているのでしょう?

(8月12日、13日に一部改稿)

 

 (追記)この文書ですが、防衛省はこれが中谷防衛大臣の指示によって作成されたものであることを認めました。つまり、中谷氏は国会で虚偽の答弁をしていたことになります。しかし、大半のメディアはこれを問題にしていません。谷垣幹事長も問題ないとしています(『毎日』)。しかし、私は、中谷氏ならびに内閣の責任が国会で厳しく追及されるべきだと思いますし、この点をまともに報道しようとしないマス・メディアの態度に懸念を覚えます(8月19日)。http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-08-18/2015081801_01_1.html

(追記2)憲法研究者有志で「統合幕僚監部内部文書に関わり国会の厳正なる対応を求める緊急声明」がだされました。

 

(1)いちばん扱いの大きそうな毎日新聞の報道はこうです。

http://mainichi.jp/shimen/news/20150812ddm002010064000c.html

(2)小池議員の質問はここで読めます。

https://drive.google.com/file/d/0B4cNuk3Xh5f3akJrOWFZVzB6MjQ/view

(3)小池議員が提出した文書はここで読めます。

http://www.jcp.or.jp/web_download/data/20150810183700620.pdf

(4)「第三次アーミテージ=​​ナイ報告書」の翻訳ならびに原文はここで読めます。

http://iwj.co.jp/wj/open/archives/56226

(5)安倍首相の後方支援に関する発言はここを見るとわかります。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-06-18/2015061801_01_1.html

(6)ドイツとカナダの例はこの記事であつかわれています。

http://www.asahi.com/strategy/0320b.html

(7)核兵器は弾薬に分類されるので他国に提供可能であるとした中谷大臣の発言はここで確認できます。

http://www.asahi.com/articles/ASH855HLCH85UTFK00M.html

(8)米国の来年度予算に関する記事はここで読めます。

http://www.stripes.com/news/pacific/us-defense-budget-already-counting-on-japan

-self-defense-plan-1.346012

http://www.asahi.com/international/reuters/CRWKCN0PJ2ZE.html

 

 

 

 

 

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